イミテーションラブ
家に帰ってテレビを見ながら田崎の訪問を待つ。
なんだか落ち着かない気分で、立ったり座ったりを繰り返す。
話をしに来るはずなのに、田崎の好きそうなツマミを用意したり、ビールなどのアルコールを冷蔵庫で冷やしている。

暫くしてインターホンが鳴った。
ドアを開けて田崎を迎える。
「…どうぞ」
田崎は黙ったまま靴を脱ぐと、いつも座るテーブル前に腰を下ろした。

「…な、何か飲む?」
私が聞くと「ビールで」と返事する。
冷蔵庫から取り出したビールをグラスに注いでテーブルに置いた。
田崎はゴクゴクとそれをひと息に飲み干すと空になったグラスをテーブルに置いた。
喉が潤った筈なのに、再び沈黙が流れる…
ふう…と深く息を吐く気配がして、田崎がじっとこちらを見据えていることに気がついた。
「…何か言うことは?」
そう言った田崎の言葉に私はやはり沈黙で返す。
視線を避けてる私の態度に、はぁっと大きな溜息が聞こえてきた。
「あのさ、訳わかんなくて戸惑ってるの俺なんだけど…」
手で髪の毛をクシャッと掻き、今度は優しい声色で、私が田崎の方にしっかりと向き合うのを待っていてくれるように感じた。

「うん…」
避けていた視線を田崎に戻す事で、私は同じように避けてた話題に向き合おうと決心した。
それが分かったのか、先に田崎から質問を投げかけられた。
「…あの時何で泣いてた?…しかも広瀬さんと一緒だったし…」
思っても見なかった質問に、広瀬さんは関係ないんだけど…と、突っ込みを入れたくなる。

「それは私が泣き出したからで…」
私が泣き出した理由を話さないと、何でこんな気持ちになったのか理解できないだろう…
避ける理由もそこにあるのだ。

「…で、広瀬さんの胸借りたのかよ、俺の前で?」
すこし不機嫌な口調で田崎が攻める。
…まるで彼氏気取りだ。

「そもそも元はといえば田崎の…!」
言いかけてやめた。
田崎が他の女性と付き合う話を聞いたからだって言いたくない。
私が言い淀んでいると、田崎の腕が伸びてきて、私の両頬を覆った。
田崎を見る私に、じっと視線を外さない田崎の瞳…慣れない態度に戸惑ってしまう。

「…俺以外の男の前では泣くな、特に広瀬さんの前とか…」
そう言って、ヤキモチみたいな田崎の態度に思わず嬉しくなる。
私を想ってくれるような言葉についつい、ほだされていく。

…やっぱり田崎が好きなのだ

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