イミテーションラブ
就業時間が過ぎて、同じ部署の人に挨拶をして席を離れる。
エレベーターに乗り込み、田崎のいる上の階を押した。ドアが閉じて上へと動く密閉された空間の中、心臓がドキドキ鼓動する。

田崎のいる部署に行って、何が分かるのかな…
私を紹介するとか…?
そんな考えが浮かんできたが、あの時言ってた私からの質問とは違う気がした。
エレベーターが開き、部署のカウンターが見える。仕事が終わったのは、ここの部署も同じらしく、奥の会議や打ち合わせで使うテーブルに人だかりができていた。
カウンター越しに声をかけようか悩んで躊躇していたら、人だかりの中から私に気づいた田崎がこっちを見て、手招きする。
「こっち!」
何人かが、田崎の声に反応して私の方に振り返る。恥ずかしく思いながらも、言われるままに人だかりのある方に向かった。

一人の女性が花束をもらっていて、その横にお偉いさんのニコニコした顔と、テーブルには沢山のお菓子やジュース、サンドイッチ、唐揚げ、ポテトなど軽食が置かれている。

近づいて見てみると、花束のその女性には見覚えがあった。田崎と一緒に冷やかされていたあの時の人だった。
「婚約おめでとう、お幸せに!!」
「結婚まで気を抜くなよ」
「招待してね〜」
親しい友人から祝福を受けて、涙を浮かべている女性は「ありがとう」とお礼を言ったりして、周りはお祝いムードになっていた。

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