イミテーションラブ
私はこの状況を観察しながら、明日ここへくれば分かると言っていた田崎の意図が分かった。
どうやら私が誤解していたようだ。
「理解した?」
私の横に当たり前のように近づいてきた田崎が、そう言って私の肩にポンと手を置いた。
「…結婚のお祝い?」
「そう、結婚するから今月やめる愛里先輩…」
「…そうなんだ…」
あの時、その先輩のことが好きと言ってたのは聞き違いなの?
私がそう言おうと思ったら、そういえば…と田崎は話を続けた。
「あの時、俺が好きとか愛里先輩に話してたのは、彼女が結婚前のマリッジブルーで落ち込んでたから、自信持って欲しくてそういう話になったって事…」
「分かった?」
私はコクっと頷き、
「誤解してゴメンね」と田崎に謝った。

皆んなに祝福された愛里先輩という方は、半泣きでハンカチを片手に挨拶をしている。
すると不意に拍手が起こり、どこから現れたのか新郎予定の男性が、頭をペコっと下げて主役の先輩の横に並び、お祝いの言葉を述べた。
どうやらサプライズで呼ばれたらしい。
会社の取引先の相手だったらしく、顔見知りという事で挨拶を兼ねて登場したようだ。
あの日、すれ違った時に内緒にしてねと話していた事は、多分、今日のこのサプライズのことだと思う。
誤解が解けて、心の中が晴れていく気分だった。

田崎に促されて、テーブルの食べ物を少し分けてもらう。同じ部署でもないのに図々しいかもと心配した。
だから「私がいても大丈夫なの?」と聞くと、田崎は私を見ながら意地悪な微笑みを浮かべると、私の腰に手を伸ばし自分に引き寄せる。
耳元で囁くように「…彼女を紹介したいから連れてきたんだけど…」と、距離感考えずに皆んなの前なのに甘々の態度。
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