イミテーションラブ
「なんでここにいるの?」
ビックリして田崎涼介に聞くと「ああ、先輩に呼ばれた」と返事が返ってきた。
「ウチの課じゃないでしょ?」
そもそも私の歓迎会だし、部外者の田崎涼介がなんで参加するのか…
そんな私の疑問に田崎は当たり前のように
「そっちの課に俺がよく顔出してるからって、田中先輩においでって誘われたら断れないだろ?俺って可愛がられてるし」
おい、それ自分で言うか?
「まあ、そう言うことで。あっち?」
私が出てきた方を指差して、田崎涼介は悪びれることもなく、そのまま皆んながいる個室へと入っていった。
私はスタッフさんにお水を用意してもらって、腑に落ちないながらも自分の席へと戻った。
「先輩、お水どうぞ」
酔っ払ってテーブルに伏せっている先輩にお水を差し出す。
「う…ん、ありがと智花」
顔を上げて青白い表情を見せる。
「大丈夫ですか?」
「こうしてれば少しよくなるから…」
そしてまたテーブルに顔を伏せた。
「飲み会だといつもこんな感じだから」
広瀬さんが英里奈先輩を見ながら溜息をつく。
「そうなんですか?」
「帰りは俺が送って行くし、心配しなくていいから」
送るのは当たり前と言うように広瀬さんがそう言った。
「あれれ?お二人そうなんすか?」
地獄耳のように離れた席から、田崎涼介の興味津々の声が聞こえてきた。
「まだ付き合ってから間もないけど…ね」
英里奈先輩を優しく見つめながら、広瀬さんが隠すこともなく素直に話す。
「そうなんですか…」
そう言うだけで精一杯だった。
なんだか急に胸が苦しくなる。
彼女がいてもしょうがないとは思っていたけど、同じ会社の人で、しかも仲良くしてもらっている英里奈先輩だとは思わなかったし、広瀬さんと付き合ってるような雰囲気でもなかった。
「お似合いっすよ、田中先輩優しいし!」
親指を立てて、田崎涼介が褒め称える。
「まあ、ココだけの話にしてくれると助かるかな、仕事の時にやりにくいから」
「…はい」
返事をする私の声が強張る。
冷静になれと自分に言い聞かせる。
そんな私を田崎にじっと見つめられて、私の広瀬さんへの気持ちが筒抜けのような気がした。




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