素直になれない、金曜日
不安に駆られて俯いて。
やっぱり『一人で帰れます』と断ろう、と決めて顔をあげようとしたとき。
「俺が」
私が口を開く、その一足先に声を上げたのは図書室の奥の方に一人で座っていた砂川くんだった。
「桜庭さんは、俺が送ってく」
思わず俯いていた顔をあげた。
周りをみれば、他の先輩や同級生もきょとんと呆気にとられている。
それもそのはず。
砂川くんは今も “無口の王子様” の呼び名で通っていて。こんな風にみんなの前で発言したりすることなんてほとんどない。
ほとんどないというか、図書委員ではこれが初めてなんじゃないかな。
驚くみんなを差し置いて、砂川くんがつかつかと私の傍に歩み寄ってきて。
「桜庭さんさえよかったら、だけど。 俺じゃだめ?」
「え、っと……」
こてん、と首を傾げる砂川くん。
私は咄嗟に言葉が出てこなくて。
「ごめん、嫌だったらいいんだ」
違うの、返事できなかったのは嫌だったから、とかじゃなくて、ただ急展開すぎて何が何だかわからなくて、混乱しているだけで。
慌てて、首をふるふると横に振った。
「ち、違う」
「……?」
「嫌だった、とかじゃないから……だから、」
それ以上は気恥ずかしくて、それから緊張で声にならなかった。
だけど砂川くんは私の言いたいことを汲んでくれたようで。
「じゃあ、送ってく」
そう言って、優しく微笑みかけてくれた。
「お、お願いします」
ぺこりと頭を下げた私は、砂川くんと一緒に帰れることが決まった嬉しさに緩む頬を隠すのに必死だった。