素直になれない、金曜日
「嬉しかったんだよ、素直に。好きって、単純だけどそんなに簡単にもらえるような言葉じゃないし」
─────最初は、ね。
「でも、みんな言うんだ。『格好よくて優しくて王子様みたいだから好きなんだ』ってさ。別によかった。だけど俺がその告白を断ったら『思ってたのと違った』なんて言ってあっけなく離れていく」
砂川くんの目が寂しげな光を宿す。
「次第にわからなくなった。優しい、だけが俺で、じゃあ俺はいつでも誰にでも優しい王子様でいないといけないのか、とか」
穏やかなトーンで話しているのに、その声には切実な思いがこもっているように聞こえた。
「いつだって、そうだったんだよ。勝手に好きになって、勝手に期待はずれだって、勝手に離れてく。“砂川駿”のことをちゃんと見てくれる人なんていなかった。だから、むやみに優しくしたりするのはやめたんだ。優しくない全然話さない俺でも好きだって言ってくれる人が現れないかなって」
まあ、いないんだけど今のとこ。
そう言って、ふっと笑った砂川くん。
私は─────私は、どうなんだろう。
どんな砂川くんのことを好きになったんだろう。優しくしてくれたから?いつも、助けてくれるから?
まだ、はっきりとその答えは私の中にはない。
今更だけど、どうして砂川くんは私にそんな話をするんだろうか。
疑問に思ったとき、ふいに砂川くんが私の名前を呼んだ。
「でも、桜庭さんは」
「……っ?」