素直になれない、金曜日
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ローファーに履き替えて昇降口の側に出ると、砂川くんが下駄箱にもたれかかるようにして立っていた。



「お待たせしました」

「別に」



素っ気なく返事したかと思えば、砂川くんは歩き始める。慌てて追いかけて隣に並んだ。


あの不審者騒動の日から少し経って、砂川くんと毎日一緒に帰るのも、ちょっとずつ慣れてきたところ。


放課後、昇降口で砂川くんが私を待っていて。
逆に私の方が早いときは砂川くんを待って。


ふたりで並んで歩いて帰る。



家の方向は違うのに、砂川くんは毎日欠かさず私の家の前まで送ってくれる。



最初の数日は慣れなくて、緊張と戸惑いで、放課後が近づくにつれて心臓がばくばくしていたけれど、最近ようやくまともに過ごせるようになったんだ。



いつもさりげなく車道側を歩いてくれる砂川くんを見上げて。




「あの、砂川くん」



彼の名前を呼べば、こちらを向いて「ん?」と首を傾げる。



「さっきは、ありがとう」

「さっき? あー……」



きょとんとしてから、腑に落ちたような表情に変わる。そして、少し考える素振りをしたかと思えば小さく口を開いて。



「俺は何もしてないけど」

「でも、っ」




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