素直になれない、金曜日
砂川くんが、あのとき私の代わりに手を挙げて声を上げてくれなかったら。
今日の出来事は全部なかったことになるんだよ。
「あのさあ、」
溜息をついて砂川くんは私と目を合わせる。
絡んだ視線とその近さに息を呑んだ。
「考えてきたのも、書いてきたのも桜庭さんじゃん」
「……う、うん」
「だから、今日のは全部桜庭さんのおかげ」
そうなのかな、そう思ってもいいのかな。
でも、私一人じゃきっと……。
俯きかけた私を引き留めるように砂川くんの声が降ってくる。
「この前も言ったけど、桜庭さんは、もっと自分に自信持っていいと思う」
砂川くんはいつも、そう言ってくれるけれど。
わからないよ。
自分のどこに自信を持っていいのか、ぴんとこない。自信を持てる部分なんて、そんなの、見つからないんじゃないかなって。
ずん、と心が重くなる。
私はいつも自分を見失ってばかりだ。
「いっぱいあるじゃん」
「……え?」
「桜庭さんの良いところなんて」
当たり前、と言わんばかりの堂々とした表情を浮かべる砂川くんに面食らった。
「今日だって、他の誰もみんな忘れてたのに 桜庭さんだけは委員長に考えといてって言われたこと、忘れてなかった」
私の瞳を真っ直ぐにとらえて、ゆっくりと言葉にしていく砂川くん。
「誰の話でもちゃんと耳を傾けて、真っ直ぐに受け止める」