素直になれない、金曜日
話に夢中になっていると、突如後ろから声をかけられて。
「あらっ?今日は、ひよりちゃんがお迎えに来てくれたのかしら」
会話を中断して振り向くと、そこには小春がお世話になっているさくら組の先生が。
実は彼女は、大ベテランの保育士さんで
私が保育園に通っていたときもお世話になっていた。
だから、私とも顔見知り。
こうやって保育園に来るたび、“ひよりちゃん” と名前を呼んで話しかけてくれるの。
「あ、葵依ちゃんのお迎えも到着してたのね〜」
先生は私のすぐそばに立っている葵依ちゃんを見つけて目を丸くしたあと、後ろに立つ彼を見て納得した様子。
「それにしても、葵依ちゃんがお兄ちゃん以外にこんなに懐いてるところはじめて見たわ」
感心したように私と葵依ちゃんを見比べて。
それから今度は私と後ろに立つ男の子を見比べて。
「ふたりって知り合いだったのね!初耳よ〜」
納得したように声を上げた先生に、きょとんとする。
「ふたり……?」
首を傾げると、先生は「決まってるじゃない」と私と後ろに立つ男の子のことを順番に指差した。
私は慌てて首を横に振る。
「いえっ……!彼とは今日偶然出逢ったばかりで、知り合いなんかじゃ……」
「ええっ、そうなの?そのわりには葵依ちゃんが懐いているみたいだし……。それに、同じ高校の制服だからてっきりそうなのかと」
先生の言葉に、私はばっと勢いよく男の子の方を振り返った。
ほんとうだ。
今の今まで、気づかなかった。
彼が着ている寒色のブレザーは、たしかに私の通う高校の男子制服。
今の今まで何とも思わなかったことが不思議なほど、見慣れた制服だ。