素直になれない、金曜日
「理由なんか、なくたっていいよ」
「え……?」
砂川くんが私の言葉にきょとんとした。
そんな砂川くんに、私は火照った頬は夕焼けのせいだと心の中で言い訳しながら。
「私だって、砂川くんの連絡先が……ほしい、って思ってた、です」
ちょっとくらいなら、欲張っても許されるだろうか。
そう思いながら少しの本音を口にした。
緊張で、語尾が変に丁寧語になってしまったけれど。
「よかった、断られなくて」
ほっとしたように頬を緩めた砂川くんが、いつになくうれしそうに見えるのは気のせいじゃないと、今だけは自惚れていてもいいかな。
さっき、砂川くんが不機嫌に見えたのは私の勘違いだったのかもしれない。
だって今の砂川くんは、どう見たって機嫌が悪いようには思えないもの。
ケータイを取り出して、QRコードでお互いの連絡先を追加する。
連絡先の一覧に追加された “砂川 駿” という たった三文字に、心がふわふわと浮ついた。
にやけそうになるのを必死で堪えて、あとは家で幸せの余韻に浸ろう、ととりあえず今はケータイを鞄に直して。
砂川くんと駅に向かう道。
今度は、さっきまで素っ気なかったのが嘘みたいに他愛のない会話を途切れることなく繋いで、ふたり影を並べた。