素直になれない、金曜日
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それから暫くして駅に着いて。

乗り込んだ電車は、帰宅ラッシュ真っ只中だったからか、ほぼ満員という混雑ぶりだった。


少し揺れると誰かとぶつかってしまうような状況で。

近くになにか掴むものがないかと探したけれど、つり革は掴めるような位置にはなかった。




隣町の駅から、私たちの最寄り駅まではちょうど三駅。

もう二駅分停車したから、電車に揺られるのもあと一駅分だ。



「……」



そう、砂川くんと一緒にいられるのもあと少しの間だけ。


駅に着いてしまえば、魔法は解けてしまう。


所詮、私はひとときのシンデレラのようなもので、王子様を独り占めできる時間は限られていて。


そのことに気づいた途端に、この時間がますます名残惜しくなる。


目の前に向かい合うようにして立っている砂川くんを、そっと見上げた。


すると。




「────っ、」



思わず息を呑む。

どうして、と声に出して聞いてしまいそうになった。



私が勝手にこっそり覗き見しようとしただけのはずだったのに、なぜか砂川くんも真っ直ぐにこちらを見つめていて。




ばちりと目が合う。



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