素直になれない、金曜日


そして、まるで体温を分け合うかのように、私の唇に触れているのは、砂川くんの唇。

そのことをようやく頭で理解して、心臓が早鐘のように打つ。




だって、これって……いわゆる。




頭の中に浮かんだカタカナ二文字に対する動揺で、身体が言うことを聞いてくれない。



今すぐ離れなきゃ、と頭では思うのに体はその場でカチコチに固まったままで。




唇を緩く塞がれて、息を吐くことも吸うこともゆるされず、だんだん酸素が足りなくなって苦しくなってくる。

生理的な涙がじわりと滲んで、視界が霞んだ。

溶けてなくなってしまいそうな思考のなかで、ひとつの疑問が浮かび上がる。




砂川くんは、どうして離れないの……?




目の前の彼は、微動だにしない。

これは、言ってしまえば単なる事故で、離れてしまえばすぐに終わる。

それだけのことなのに、どうして。



なにかに縋りたくて、砂川くんの方を伺うように見つめたけれど、その表情からは何の感情も読み取れなかった。




どうして私たちは今、瞬きもしないまま、お互い離れようともしないで唇を重ね合わせたままでいるのだろう。




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