素直になれない、金曜日
今日いちばんの衝撃の事実に吃驚してフリーズした私の肩をぽんと叩いたかと思えば。
「じゃあ私は、おいとまするわね。気をつけて帰るのよ〜」
そう言い残して先生は保育園の中へ戻ってしまった。
それから少しの間、静寂に包まれて。
何となく気まずい空気の中で沈黙を破ったのは、例の男の子。
「葵依、そろそろ帰るよ」
「……!うんっ」
彼に呼ばれた葵依ちゃんは、嬉しそうに駆け寄っていく。
お兄ちゃんっ子なんだなあと微笑ましく見つめていれば、なんだか視線を感じて。
顔を上げると、
男の子とぱちり、目が合った。
同じ学校の制服を着ているのに、私よりずっと大人びて見える。
そんな彼に、いったい何を言われるのかと身構えた。
「なあ、」
「……っ」
視線が絡んで、ただそれだけなのに
なぜか息が止まりそうになる。
彼の深い色の瞳に自分の姿がうつっている。
そのことに気づいて、わけもなく心臓が高鳴って。
上がった心拍数を悟られないように、
ぎゅっと手を握りしめて彼の言葉を待った。
「……あんた、優しいんだな」