素直になれない、金曜日
〈 まもなく△△駅──、△△です。お出口は─── 〉
随分長い間そうしていたように感じた。
ううん、きっと時間にするとほんの僅か。
流れた車内アナウンスの声に、砂川くんの肩がびくんと揺れて。ようやく我に返ったように、彼ははっと身体を離した。
急に解放されて腰から崩れ落ちそうになったけれど、ふらりと傾きそうになった足に、なんとか力を入れて身体を保つ。
ちょうどそのタイミングで、電車が停車してドアが開いた。
吸い込まれるように電車から降りようとした瞬間、後ろからぼそりと声が聞こえた。
「……ごめん」
それは、どこか焦燥に駆られたような砂川くんの声。少し掠れている。
いつもと違う声色に心がざわついた。
……砂川くんが謝る必要なんて、どこにもないのに。
だって、あれは事故で──────
事故だった、はずで。
「っ、」
さっきまで触れ合わせていた部分が熱を持つ。あのキスは、事故というには長すぎる。
だけど、それなら、事故じゃないというのなら、さっきのは一体なんだったのだと言うべきなのだろうか。