素直になれない、金曜日
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「じゃあ、また明日」

「うん、ありがとう」



駅からは、いつもの放課後と同じように砂川くんが家まで送ってくれた。


その間は当たり障りのない話を少しして。



家の前でちょっとした挨拶を交わしたあと、砂川くんはいつも通りくるりと背中を向けて帰っていく。


私はその背中を見送って、後ろ姿が見えなくなった瞬間、家の中に駆け込んで自室の床にへたり込んだ。




「……どうしよう」




今日一日、本当に楽しかったんだ。

緊張はしたけれど、まるでデートのような時間を純粋に楽しんでいる私がいた。



砂川くんのことをもっと好きになった。

自分のことさえ好きになれる気がした。




きみの隣にいるときの自分は、そんなに嫌いじゃない。そう、思えたんだよ。


それだけで、もう十分だったのに。





そっと、自分の唇に指で触れた。

そうすれば、ありありと蘇ってくるあのときの感触。


いくら事故とはいえ、私、砂川くんとキス、しちゃったんだ……。




「どう、しよう」




もう一度、呟く。


助けを乞うように、ベッドの上のくまのぬいぐるみ────ダンディーを見つめるも、ぬいぐるみから答えが返ってくるはずもなく。




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