素直になれない、金曜日
いや、そんなはずはないか。
心を落ち着けつつ、一旦離していたケータイを耳元に戻す。
『──さん? 桜庭さん、きいてる?』
「ほ、ほんとに砂川くん?」
思わず聞き返すと、軽く笑った声が聞こえた。
『ほんものに決まってるじゃん』
「そ、そうだよね……」
あらぬ疑いをかけてしまったことに、心の中で謝った。
驚きのあまり、幻聴かと思ってしまっただけなんだ。
今度からは、ちゃんと相手を確認してから電話に出ようと心に誓った。
『……で、本題なんだけど────ごほっ』
電話口の向こうで、砂川くんが派手に咳きこむ。
「大丈夫……?」
『ん……。俺、今日 風邪ひいて学校休んでて』
「風邪?」
『そう。葵依からもらったみたいで』
そういえば、数日前、葵依ちゃんが風邪をひいていると言っていた。
夏休み目前の、この時期に風邪なんて。
夏風邪にしろ、なんにせよ、心配であることには変わりなくて。
「大丈夫、なの?」
さっきも同じことを聞いたけれど。
でも、あの砂川くんが学校を休むほどなんだから、きっと相当しんどいはずで。
『葵依は、もう完全に復活してる。俺は───まあ、まだひきはじめだから』
薬飲んでこれからってとこ、なんて軽い調子で。
平気なふりをして話しているけれど、よく聞けば、砂川くんの声はいつもより掠れ気味だ。