素直になれない、金曜日
「ありがとう、ほんとに。……つうか、こんな恰好でごめん」
目の前にいる砂川くんは、上下ゆったりとした部屋着を着て、マスクをつけている。
たしかに完全にオフモードの恰好ではあるものの、それは病人なんだから仕方のないことで。
私はふるふると首を横に振った。
それよりも、私が気になったのは。
壁に寄りかかるようにして立っている砂川くんの足元はふらついていて、目元はうっすらと赤く、心做しか潤んでいるようにも見える。肌も火照っているようで、吐き出す息はいつもより荒い。
想像していたより、ずっと辛そうだった。
「中、入って」
砂川くんに促されて、一歩足を踏み入れる。
その温度とか空気とか匂いとか────ここが砂川くんの家なんだ、と思うと妙にそわそわした。
恭ちゃんは親戚だから別として、男の子の家に入るのなんて勿論はじめてで。
落ち着かない気持ちを隠しつつ、砂川くんに着いていく。
「リビングはここ。葵依もここにいる」
スライド式の扉の前で、砂川くんが説明する。
「で、こっちはキッチンなんだけど、適当に使ってくれていいよ」
「わかった。ありがとう」