素直になれない、金曜日
「美味しかった、ありがと」
満足気に言う砂川くんに『どういたしまして』と答えようと口を開こうとしたとき。
───♪〜♪
着信音が鳴り響いて、スカートのポケットに入れていたケータイが震えた。
誰かからの電話だ。
「ごめん、出てもいい?」
砂川くんが頷いたのを確認して、ケータイを取り出した。
今度はちゃんと、誰からの着信かを画面を見て確認する。
「もしもし、恭ちゃん?」
そう、電話の相手は恭ちゃんで。
私の口から出た “恭ちゃん” というワードに砂川くんが心なしかぴく、と反応したように見えた。
「どうしたの?」
『ひより、今何処にいる?』
「えっと……、今は砂川くんの家だよ」
『はあ!?砂川の家?!』
耳をつんざくような大声に、思わずケータイを耳から離した。
もう、恭ちゃんってば大袈裟だなあ。
『男の部屋にのこのこ入るんじゃねーよ。何もされてないだろうな?』
「砂川くんはそんなことしないよ!風邪の砂川くんに妹の面倒をみて欲しいって頼まれただけで……」
ちら、と横目で砂川くんの様子を伺うと、複雑な表情を浮かべてなにか考えているようだった。