素直になれない、金曜日

ぱっと視界を覆われたかと思えば、次の瞬間、ぐい、と肩を少し強引にひかれて。

促されるままに腰かけたのは、砂川くんの隣の席。




「す、砂川くん……?」




突然現れた砂川くんに戸惑いつつも、真正面から向き合ったその姿。

ずっと焦がれていた姿に、胸がいっぱいになる。



数週間ぶりの砂川くんだ。


砂川くんを前に、思考が殆ど停止して 呆然と見つめていると、砂川くんがむす、と少し不貞腐れたような表情で口を開いた。





「いつもの桜庭さんのほうがいい」


「え?」


「髪」




きょとん、としていると砂川くんの腕がすっと伸びてきて。

ポニーテールにした髪の束を指先でするりと梳いた。


恭ちゃんとは全然違う、優しくて柔らかいまるで慈しむような触れ方に胸の奥がことりと音を立てる。




髪の間をすう、と通った砂川くんの指がこそばゆくて、思わず目を細めるとくす、と砂川くんの笑った息が鼻先にかかった。


近、い。




「いつものままでいいのに」




至近距離で視線が絡まって、胸がきゅう、と高鳴った。


でも、せっかくポニーテールにしてみたのに、そんなにだめだったかな……と少し落ち込む。



まるでジェットコースターみたいに浮き沈みの激しい私の心は、自分でも扱いきれない。


私の心をこんな風に揺さぶることができるのは、今目の前にいる彼だけ、なんだけれど。




< 208 / 311 >

この作品をシェア

pagetop