素直になれない、金曜日


砂川くんの手のひらが、ポニーテールに手をかけた私の右手をきゅ、と掴んで制止する。




「え……?」




どういうこと……?

私の手を掴む砂川くんの手の意味がわからなくて、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。


すると砂川くんは、少し俯いてはあ、と息を浅く逃がして、緩く首を横に振った。





「そのままで、大丈夫だから」




全然、わけがわからない。

頭が追いつかなくて呆然としたままの私を横目に、砂川くんは問題集のある一点をとん、と示して。




「桜庭さん、この問題の解き方わかる?」

「っ?」


「いくら考えてもわかんなくて」




見ると、それはこの前私もわからなくて、恭ちゃんに教えてもらったばかりのものだった。





「えっと、それはね─────」





解説をしながら、複雑な気持ちになる。

いきなり話を変えるなんて、絶対、ごまかされたに決まっているもの。



……でも、どうして?



いくら考えてもその答えは見つからなくて、思わず溜息をつきそうになったとき。



僅かに動かした腕が、机の端の方に置かれていた砂川くんの消しゴムに当たった。

その感触ののち、消しゴムが床に落ちて。




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