素直になれない、金曜日
「ごめんなさい。私これから図書委員の買い出しに行かなきゃいけなくて、だから……」
手のひらを、きゅ、と握りしめて。
震えそうになる声を張った。
言葉を止めて、顔をふとあげると、目の前の榎木さんは驚いたように目を見開いていた。
「……そう。それなら大丈夫。じゃあね」
少し黙り込んだのち、榎木さんはそう言って、くるりと私に背中を向けた。
彼女の表情が、いつもより少し柔らかかった気がしたのは、気のせいかな。
榎木さんの後ろ姿をしばらく目で追いかけて。それから、じわりと実感が湧いてくる。
……ちゃんと、言えたんだ、私。
はじめてだ。はじめて、自分の意志で言葉にできた。
自分がちゃんと成長していることを実感して、嬉しくなる。
自分の嫌いだった要素がひとつ、泡になって溶けていくような気がした。