素直になれない、金曜日


動揺する暇さえ与えられず、そのまま腕をぐい、と引き寄せられた。

距離がぐっと近づいたかと思えば、勢い余って砂川くんの胸にとんっ、と体当たりしてしまう。



「ご、ごめ……」



慌てて謝ると、砂川くんは少し顔を強ばらせていて。

その表情に不思議に思っていると、砂川くんは、はーっと息を吐き出した。



「ごめん、俺、余裕なくて」

「……?」

「……やっぱ、何でもない」




砂川くんは緩く首を振ったけれど、対照的に、絡まった指先にはきゅ、と力が込められたような気がした。



もしかしなくても、これは恋人繋ぎというものだ。



指先から伝わってくる、体温とか、肌の感触とか、普通に手を繋ぐのと違って、ぴたりと密着する体とか。


どきどきするのと同時に、恥ずかしくて堪らなくなって、繋いだ手を離そうと身じろぎしたけれど、簡単には離してくれなかった。




「あの……、手……」




頬が紅く染まっている自覚はあったものの、隠す余裕なんてなくてそのまま見上げる。


目が合って、それから砂川くんが先に視線を逸らした。その耳が少し赤い。



「……はぐれたら、困るから」



あさっての方を向きながら、砂川くんがそっと呟く。

砂川くんまで恭ちゃんみたいなこと言う……なんて思ったけれど、口にはしなかった。



恭ちゃんが私のことを妹みたいな存在として扱っているのはもう十分にわかっているけれど、砂川くんにとってもそうなんだろうか。


……そうだと思うとちょっと複雑だな。



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