素直になれない、金曜日
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ホームセンターでの買い出しを終えて、夕日のオレンジが包む中、ふたりで並んで歩く。


繋いだ手はまだ離れないまま。


でも、砂川くんの私の手を握るのとは反対側の手にぶらさがる、膨らんだビニール袋は前に買い出しに来たときと何も変わっていなかった。




「文化祭、楽しみだね」

「だな」



秋に差し掛かり少し涼しくなった風に吹かれつつ、他愛のない会話をしながら帰路につく。


繋いだ手がゆらゆらと揺れて、でも、離れそうになる度に砂川くんがきゅ、と力を込めるから。


その度私の心臓の奥の方がきゅ、と詰まりそうだった。




───この角を曲がれば、もう私の家につく。



名残惜しいな、と思いながらも、それを口にするのはやっぱり気恥ずかしくて。

代わりに砂川くんの手を掴んでいる力を、少しだけ強めた。


曲がり角を曲がると、私の家の前の塀に誰かが寄りかかるようにして立っている影が目に入る。




誰だろう、と思ったのも束の間で、その影はすぐにこちらに体を向けた。




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