素直になれない、金曜日
砂川くんが問い詰めるほどの何かがあるわけじゃない。
だけど、砂川くんの真剣な瞳を前にして何も言えなくて、息を呑んで押し黙っていると、砂川くんがはっとしたように私の腕を解放した。
「やっぱいい。今の、忘れて」
「ごめ……」
何故だかはわからないけれど、砂川くんを不快にさせてしまったことだけは確かで。
謝ろうとすると、それを砂川くんが遮った。
「別に、謝ってほしいわけじゃない」
「……でも」
ぴしゃりと言い放った砂川くんは『謝ってほしいわけじゃない』と言いつつも、纏っている空気はいつもよりも鋭い。
ひやり、と心に冷水を浴びせられたような心地になる。
気まずい沈黙が一瞬流れて。
「……俺の方こそごめん。責めてるわけじゃ、ないから」
そのまま、砂川くんはくるりと振り返ったかと思うと、何も言わずに足早に去って行ってしまった。
その背中を追いかければよかったのかもしれない。
砂川くんの名前を呼んで、その腕を掴んで。
自分の気持ちをちゃんと伝えて、砂川くんの話をちゃんと聞くことだってできたかもしれない。
────それをしなかったのは、できなかったのは、私自身で。
その場に呆然と立ち尽くした私の腕を引いたのは、いつの間にか歩み寄って来ていた恭ちゃんだった。
「おかえり、ひより」
「……うん」
浮かない顔をした私の頭を、恭ちゃんがそっと撫でてくれたけれど。
それでも、私の心はざわざわして落ち着かなかった。
◇