素直になれない、金曜日
変わる機会はいくらでもあったのに、挑戦もせずに諦めて、変わってこなかったのは私だ。
そんな自分を、変えたいと思ったんじゃなかったの?
変わるって、心に誓ったんじゃなかった?
頭の中を駆け巡るのは、たったひとりの声。
その声を聞くと、いつもどきどきして。
それから、いつからか、その声を聞くと落ち着いていられる自分がいた。
『せっかく考えたのに勿体なくない?』
『俺は、桜庭さんのそういう考え方が好きだから』
いつだったか、私の背中を押してくれた砂川くんの声。
自分では見つけられなかった、私のいいところを見つけて、拾い集めてくれた。
溢れんばかりに拾い集めて、私に渡してくれた。
砂川くんがくれたきっかけを、活かすのも活かさないのも私次第だ。
「……っ」
机の中の、あるものに手を伸ばした。
きゅ、と目を瞑って。
勢いのままに、生まれた勇気が萎んでしまわないうちに、右手をそっと挙げた。
その手が震えているのは、隠しきれない事実だけど。
“変われるよ”
いつか砂川くんがくれた右上がりの5文字が、私にはついているから。
もう何も、怖がることはない。
挙げた方とは反対の手で、机の中のスケジュール帳に挟んでいた栞の輪郭をそっとなぞった。私にとって、何よりも強力なお守りなの。