素直になれない、金曜日


「ええっと、桜庭さん?」



実行委員の男の子が、戸惑いつつ私の名前を呼んだ。


まさかいつも教室の隅で、ほとんど口を開かずに大人しくじっとして過ごしているだけの私がこんな風に手を挙げるなんて思ってもいなかったのだろう。



……私だって思ってもいなかったよ。




席を立つと、カタン、と椅子が動いた音が派手に鳴り響いた気がした。

クラス中の好奇に満ちた眼差しが、私の方に一斉に向いたのを肌で感じる。


頬が緊張でぴりついた。


すう、と息を吸って。
それから、はっきりと口を動かした。




「あの……私、時代劇がしたい、です」




しん、と静まり返った教室の隅まで、私の声が届いたのを感じる。

一呼吸おいて、誰の反応もなかったのが急に不安になって。



「えっと、どうですか……?」



過度の緊張で腰が抜けそうになるのを堪えながら、首を傾げると。



「時代劇、めっちゃいいじゃん!!」




はじめに声を上げたのは、いつも榎木さんの隣にいる女の子。

それを皮切りに、クラスの皆が口々に声を上げる。




「時代劇面白そー!!たしかに、それだと他クラスと被ることもなさそうだね」

「いいじゃん、俺は賛成」

「私もいいと思う!」




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