素直になれない、金曜日
「そっか〜、従兄妹なんだ!」
うん、と頷いて。
それから、ふと引っかかった疑問をその子にぶつけてみる。
「あの、恭ちゃん……深見先輩って、そんなに有名なの?」
首を傾げると、彼女は驚いたように目をぱちくりとさせた。
「もしかして知らない? 深見先輩って、女の子たちの間で結構人気なんだよ」
「嘘だ……」
「ウソじゃないよ〜。ちょっとチャラい見かけとは逆に、皆に平等に優しいし。誰にでもフレンドリーでモテるのに、彼女作ったことないみたいだから、本命の女の子がいるらしいって、もっぱらの噂なんだよ」
「そ、そうなんだ……」
全っ然、知らなかった。
私の中で、恭ちゃんはいつだって “恭ちゃん” だったからなあ。
なんとなく不思議な気持ちになって、ほう……と息を吐くと。
そういえば、と女の子が思い出したように口を開いた。
「さっきね、教室に砂川くんが来てたよ」
「え……?砂川くんが?」
今出てくるとは思っていなかった人物の名前に、驚いてきょとん、としていると。
「桜庭さんのこと、探してるみたいだったけど」
「え……ほんとに?」
思わず聞き返すと、彼女はうんうん、と頷いた。
そんな彼女にありがとう、とひとまずお礼を言ってから、時計を確認するともう昼休みが終わる直前だったから。
今日は金曜日だし、砂川くんが昼休みに訪ねてきてくれた理由はまた委員会のときに聞けばいいか、と思って自分の席に戻った。