素直になれない、金曜日
「中学校のとき痛い目にあったんだよね。……私が一番の親友だと思ってた友達は、ひよみたいな、大人しくて自分の意見は二の次、みたいな子だった」
榎木さんは、記憶を辿るように視線を斜め上に向けた。
「思えば、いつだってそうだったのよ。あの子は自分の意見を全く言わなかった。私がする事なす事全部に頷いて、着いてくるだけで。……まあ、それに依存してたのも私の方かもしれないんだけど」
「……」
「で、そのうち学校でイジメがはじまった。私に対して、それも結構陰湿な。SNSであることないこと書き込まれたり、物隠されたり、無視されたり」
「え……」
思わず声を上げた私をちらりと一瞥して、榎木さんは小さく息をついた。
「でも、よかったんだ別に。私にはひとりだけでも親友がいればよかった。ひとりじゃないなら、味方がいるなら、それで十分だって思ってた。────でも実の所は、ひとりだったんだよね。私が気づいていない馬鹿なだけだった」
くすり、と笑う。
たしかに笑顔なのに、その表情は寂しげに見えた。
「あの子しか知らないはずの私が隠していた秘密が漏れた。一気に拡散されて、冷やかされた。最初はまあ、どうしてばれたんだろうぐらいしか思っていなかったんだけど。……よくよく話を聞けば、その話の出処はあの子だった」