素直になれない、金曜日
かといって、他にすることも見つからないしなあ。
完全に手持ちぶさたな私の視界に、ファスナーを閉め忘れていた鞄からネイビーが飛び込んできた。
「……あ」
ネイビーの正体は、タオル生地のハンカチ。
そしてそれは、私のもの……ではなく、あの日───あの月曜日、泣いていた私に見ず知らずの男の子が差し出してくれたものだ。
持ち帰ったあと家で洗濯したから、香りがシトラスからフローラルへと変わってはいるけれど。
『あげる』と言ってくれたからといって、貰ったままでいるのは居心地が悪くて、あの翌日からずっとカバンの中に入れている。
同じ高校みたいだし、また会えたときに返そうと思って。
────そんな私の考えは甘かった。
あれから一週間とちょっと。
ハンカチを返すどころか、あの人の姿さえ一度も見かけない。