素直になれない、金曜日
「……っ」
『大事なことは、言葉で伝えなきゃ』
由良ちゃんの切実な声にはっとした。
そうだ……私。
私は、思い上がっていたのかもしれない。
砂川くんがいつも、欲しい時にほしい言葉をくれて、すくい上げてくれるから。
言わなくたって、わかってくれる……なんて、そんなはずないのに。
だって、私はまだ大事なことをなにひとつ伝えていない。
出逢ったときから、ちょっとずつ降り積もった感謝の気持ちのありがとうも。
いつのまにかこんなに膨らんでいた、好きだという気持ちも。
ちゃんと伝えなきゃ何もはじまらない。
いちばん伝えたい気持ちは、ちゃんと言葉にしなきゃ伝わらない。
素直になるのが下手くそな私だけど、いい加減素直にならなくちゃ。
「由良ちゃん、ありがとう」
『別に、私はなにもしてない』
「でも、ありがとう」
ありがとうって思ったら、思ったときに伝えなきゃだめなんだ。
そんな私の気持ちを汲んでくれたのか。
『うん』
最後に由良ちゃんは優しく頷いて、ぷつりと電話が切れた。