素直になれない、金曜日
このままだと言うタイミングを逃してしまいそうだった。
お願いするなら、今しかない。
「今日、砂川くんの時間を、私にくれませんか?」
「え……」
砂川くんの瞳を真っ直ぐに見つめる。
緊張、しないわけがないけれど、まだこれは第一段階だもの。何としてでもクリアしなければならないの。
首を傾げた砂川くんに、言葉を重ねた。
「文化祭、一緒に回りたいの。……ふたりで」
砂川くんが黙り込んだ。
逡巡するような素振りを見せる。
……一瞬、だめかも、と思ったけれど。
「───俺で、いいの?」
不安気に砂川くんが首を傾げて、それが肯定の返事だということに気がつくのは遅くなったけれど、慌てて頷いた。
「砂川くんが、いい」
しっかり、そう口にすると砂川くんは柔らかく微笑んだ。
それは何度も見たことがある大好きな笑顔。
「……いいよ。一緒にまわろ」
「ほんと?」
嬉しくて、信じられなくて。
聞き返すと砂川くんはこくり、と頷いた。
「あの、私、この後クラスの発表があって」
「劇出るんだよね?待ってるよ、それくらい」