素直になれない、金曜日
魔法が解けるように、砂川くんが、繋いでいた手をゆっくり離した。
離れていく体温が切なくて、胸の奥がきゅう、と狭くなる。
「今日は、ありがと」
それだけ言って、砂川くんはくるりと背を向けた。そして、ゆっくりと距離を広げていく。
しばらくその後ろ姿を呆然と眺めていた、けれど。
─────そうじゃない。
昨日決めたんだ。
もう逃げない、後回しにしないって。
今日こそは、ちゃんと砂川くんと真正面から向き合って。それから自分の気持ちにも向き合うって。
このまま背中を黙ったまま見送っていて、いいわけがない。
すう、と息を吸って。
大きく、吐いて。
深呼吸したのちに、口を開いた。
離れていこうとする背中に呼びかける。
「──────砂川くんっ!!」
思ったよりも大きな声が出て、自分でもびっくりした。私って、こんな声出せたんだ。
砂川くんも、驚いたように足を止めた。
立ち止まったまま、こちらを振り向きはしないけれど。
それでもいい。