素直になれない、金曜日

彼女がひとしきり落ち着いたところで、とりあえず別れた────はずだったけれど。




まさか目的地が同じだとは思わなかった。




俺が葵依を迎えに行くために保育園に向かっていたのと同じように、彼女もまた妹を迎えに行くために保育園に向かっていたらしい。





しかも話を聞けば、葵依は今日彼女の妹と仲良くなったそう。


あの引っ込み思案の葵依が……ね。





それで、暫くの間葵依と彼女と彼女の妹が他愛のない話で盛り上がるのを横目に見ていたわけだけど。





あの、誰にもなかなか心を開かない葵依が初対面の彼女と楽しそうに会話を弾ませていて。



驚いたと同時に。




「──────っ、」





どく、と心臓が鈍く音を立てた。

視線が釘付けにされる。




白い肌を桜色に上気させて、目を細めて幸せそうに微笑む彼女の笑顔に。





葵依が初対面からこんなにも心を開くっていうのは、彼女から何かを感じたからなのかもしれない。


ほら、幼い子ってそういうのに敏感っていうし。





同じ日に涙も笑顔も見ることになるとは思わなかったけれど、そのどちらもが、あまりにも綺麗で。




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