素直になれない、金曜日
曖昧に頷けば、
砂川くんはゆっくりと口を開いて。
「……会えてよかった」
「……?」
小さく呟いた言葉は私の耳には届かない。
思わず首を傾げたけれど、砂川くんは何も無かったように自分の持ち場に戻った。
大したことじゃなかったのかな、と私も彼に倣って自分の作業の続きに手をつけた。
それからは特に何事もなく、無事に図書当番も終わり。
家に帰って、真っ先に向かったのは自分の部屋。
「ダンディー」
開口一番に灰色のくまの名前を呼ぶ。
ベッドの上に座るそれに、腕を伸ばして、ぎゅむっと抱きしめる。
「砂川くんと話せたよ」
もふもふのぬいぐるみに顔をうずめて、そっと呟いた。
「少しだけ、だけど」
ねえ、期待してもいいのかな。
助けてくれた人が同じ学校で
偶然同じ委員会で、再会した。
……しかも、当番まで一緒。
こんな、奇跡みたいな偶然、
そう何度も起こるようなことじゃない。
これはただの予感だけど。
「変わる気がするの」
見える世界が、
惰性で過ごしてきた日常が、色を変える
───そんな気がしてるんだよ。