チョコレートを一滴
★
「すみません。ホットチョコはないんです」
夜19時半、日葵が働くこのカフェで、ラストオーダーの時間にいつも彼は現れる。
見た目は二十代後半くらいの感じなのに、学生の日葵が見ても分かるような仕立ての良いスーツを着ている彼は、何者なのか日葵は知らない。
オーダーはいつもコーヒー。好きな豆はグアテマラ。
そんな彼がこの日突然、オーダーしたのはメニューにはないホットチョコだった。
「残念。バレンタインに日葵ちゃんからチョコレートを出して欲しかったのに」
意外な台詞に日葵は落としていた視線を上げて彼の顔をまじまじと見た。
彼がこの店の常連になったのは、日葵がこのカフェの店員になってから三か月後のことだった。
以来、ずっとこの端正な顔立ちの彼に日葵は密かな憧れを抱いている。
けれど彼は大人で、大学生の日葵からは想像もできないようなどこか大きな会社に勤めている人に違いない。
一度、運転手らしき人が店内まで彼を呼びに来たことがある。
もしかしたらどこかの国の王子様なんじゃないだろうか。
なんて、そんな子供じみた想像がピッタリな素敵な男性だった。
夜19時半、日葵が働くこのカフェで、ラストオーダーの時間にいつも彼は現れる。
見た目は二十代後半くらいの感じなのに、学生の日葵が見ても分かるような仕立ての良いスーツを着ている彼は、何者なのか日葵は知らない。
オーダーはいつもコーヒー。好きな豆はグアテマラ。
そんな彼がこの日突然、オーダーしたのはメニューにはないホットチョコだった。
「残念。バレンタインに日葵ちゃんからチョコレートを出して欲しかったのに」
意外な台詞に日葵は落としていた視線を上げて彼の顔をまじまじと見た。
彼がこの店の常連になったのは、日葵がこのカフェの店員になってから三か月後のことだった。
以来、ずっとこの端正な顔立ちの彼に日葵は密かな憧れを抱いている。
けれど彼は大人で、大学生の日葵からは想像もできないようなどこか大きな会社に勤めている人に違いない。
一度、運転手らしき人が店内まで彼を呼びに来たことがある。
もしかしたらどこかの国の王子様なんじゃないだろうか。
なんて、そんな子供じみた想像がピッタリな素敵な男性だった。
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