#Hot Chocolate on a Cold Night
#Hot Chocolate on a Cold Night
休憩室の私に気づいてないらしく、美人受付嬢の金村さんがスタンリー部長に話しかけている。
「好きです。受け取ってください。英国王室御用達のチョコです」
金村さんが告げたブランド名は、私が部長のために用意したのと同じ。
ため息を飲み込んだとき、部長の声が答える。
「悪いが受け取れない。口に合わないんだ」
「それはこのチョコが嫌いってことですか? それとも私のことが――」
これ以上聞いちゃいけない。私は温めたミルクのマグカップと、部長に渡すつもりだったチョコ入りの紙袋を持って、屋外テラスに出た。
「寒っ」
無人のテラスでチェアに腰かけ、マグカップをテーブルに置く。
金村さんの告白さえ断るような人に告白しようとしていた私は、ただの身の程知らずだ。
あげる相手を失ったチョコの包みを破り、極薄チョコを砕いてカップに落した。スプーンで混ぜて飲もうとした時、ドアが開く音がした。見ると部長が立っている。
「寒いのに何やってる?」
部長はお父様がイギリス人のハーフだ。高貴な顔立ちで、存在するだけで周囲を洗練された空気に変える。
私は視線を逸らす。
「休憩です」
「さっきの話、聞こえてた?」
部長は隣のチェアに座って長い脚を組んだ。
「悪いと思って途中で出ました」
部長はテーブルに右肘をつき、マグカップから私へと視線を移す。
「それ、ホットチョコレート?」
「はい」
部長に見つめられて落ち着かず、意味もなくスプーンで中身をかき混ぜた。
「先月残業した時、俺に作ってくれたよな。あの時はシナモンスティックで混ぜてた。うまかったよ」
「ありがとうございます。でも、これは部長のお口には合わないと思います」
チョコの箱をチラリと見てから、しまった、と思った。金村さんとの会話を聞いていたとバラしたも同然だ。
部長がクスリと笑う。
「だが、不思議とこれは口に合うんだ」
部長が手を伸ばしてカップを持つ私の手を包み込んだ。途端に私の心臓が大きく跳ねる。
「これしか口に合わない、と言った方が正確だな」
部長が大きな手で私の手ごとカップを掴んで持ち上げ、一口飲んだ。部長の唇が、私の指のすぐ傍にある。
「お前のくれるものしかいらない。わかるか? お前以外いらないんだ」
「わ、私も部長しか――」
長いまつ毛を伏せた部長の顔がゆっくりと迫ってきて、返事の続きは部長の唇の中に消えた。
「好きです。受け取ってください。英国王室御用達のチョコです」
金村さんが告げたブランド名は、私が部長のために用意したのと同じ。
ため息を飲み込んだとき、部長の声が答える。
「悪いが受け取れない。口に合わないんだ」
「それはこのチョコが嫌いってことですか? それとも私のことが――」
これ以上聞いちゃいけない。私は温めたミルクのマグカップと、部長に渡すつもりだったチョコ入りの紙袋を持って、屋外テラスに出た。
「寒っ」
無人のテラスでチェアに腰かけ、マグカップをテーブルに置く。
金村さんの告白さえ断るような人に告白しようとしていた私は、ただの身の程知らずだ。
あげる相手を失ったチョコの包みを破り、極薄チョコを砕いてカップに落した。スプーンで混ぜて飲もうとした時、ドアが開く音がした。見ると部長が立っている。
「寒いのに何やってる?」
部長はお父様がイギリス人のハーフだ。高貴な顔立ちで、存在するだけで周囲を洗練された空気に変える。
私は視線を逸らす。
「休憩です」
「さっきの話、聞こえてた?」
部長は隣のチェアに座って長い脚を組んだ。
「悪いと思って途中で出ました」
部長はテーブルに右肘をつき、マグカップから私へと視線を移す。
「それ、ホットチョコレート?」
「はい」
部長に見つめられて落ち着かず、意味もなくスプーンで中身をかき混ぜた。
「先月残業した時、俺に作ってくれたよな。あの時はシナモンスティックで混ぜてた。うまかったよ」
「ありがとうございます。でも、これは部長のお口には合わないと思います」
チョコの箱をチラリと見てから、しまった、と思った。金村さんとの会話を聞いていたとバラしたも同然だ。
部長がクスリと笑う。
「だが、不思議とこれは口に合うんだ」
部長が手を伸ばしてカップを持つ私の手を包み込んだ。途端に私の心臓が大きく跳ねる。
「これしか口に合わない、と言った方が正確だな」
部長が大きな手で私の手ごとカップを掴んで持ち上げ、一口飲んだ。部長の唇が、私の指のすぐ傍にある。
「お前のくれるものしかいらない。わかるか? お前以外いらないんだ」
「わ、私も部長しか――」
長いまつ毛を伏せた部長の顔がゆっくりと迫ってきて、返事の続きは部長の唇の中に消えた。