彼女の目には、空が映らない。
なぜか少し腑に落ちなそうな一夜が、今度は帰る準備をしていた俺の目の前にまで来て、しかも俺の顔を覗き込んできてまた口を開いた。
「…じゃあ、なに?」
「えっ?」
少しの間の後にまた疑問を投げかけられて、鞄に荷物を詰めていた俺は思わず顔を上げる。
「正月気分じゃないのは確認できた。けど、やっぱり始業式の日からナツが変。」
俺の席は窓際から2列目の後ろから2番目の席で、一夜はその左斜め後ろに座っている。
斜め後ろからでも、人がいつもと違うということが分かるのだろうかと疑問に思う。
というか、一夜こそ、授業中に俺のことを見てるのだから授業に集中できていなかったんじゃないのか。
「あ、ちなみに俺はちゃんと授業は聞いてたから。黒板見ようとしたら嫌でもナツが目に入ってくるんだ。」
なぜか少し語尾を強調し、俺が考えていたことを見透かしたように自分にかけられた疑いを晴らした。
「そしたらさ、ナツが頬杖ついてんだもん。」
「……え、それだけ?」
「は?」
たったそれだけで?
たったそれだけの行動で、俺の様子がヘンだっていうのか?
「頬杖くらい、誰でもつくでしょ」