彼女の目には、空が映らない。

俺の放ったその言葉に、一夜はもう一度「は」と言いたいかのように口を開け、「お前大丈夫か」とでも言いたいように眉間に皺を寄せた。

変なことを言ったつもりは無い。
頬杖をつくなんて誰にだってあることだと思う。


が、そんな自分の考えが甘かったことに俺は今気づいてしまう。



「授業中だぞ?うちのクラスの人間がだぞ?しかもよりによってナツだぞ?」



そうだ、うちのクラスに限っては絶対と言っていいほどありえなかった。
授業中に頬杖なんて。



一夜によると、この約1週間俺は、授業中顔は黒板に向いているもののペンを動かしている様子もなく脚を組み直す様子もなく、ほとんど1時間ずっとただ頬杖をついていたらしい。




学校からの最寄り駅まで約15分。
ふたりで学校を出てから駅に着くまでずっと、一夜にこの約1週間の俺の様子をひたすら聞かされた。



その時に何度も一夜に投げられた「なんで」という言葉。
別に答えてはいけないことではない。
誰かに知られてはいけないことでもない。
でも俺は答えなかった。
なんで言わないのかと言われれば、なんとなく、それだけ。


俺は「なんでだろ」と返すだけだった。



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