お前の唇、奪っていい?
すれ違う心
「お父さん、今年は祐誠がいないの。お仕事が忙しいんだって。
...私知らなかった、啓くんが毎年来てくれてたなんて」
「連絡しようかなって何度も思ったんだけど、僕も忙しくて。お墓参りが終わったら毎回すぐアメリカに帰っちゃってたんだ」
「そうだったんだ...」
驚いた。まさか啓くんが、お父さんが亡くなってから毎年必ず来てくれてたなんて
お父さんのお墓の周りに生えている雑草をふたりで抜いて、花をお供えして、線香を置く
そこから私たちはしばらく黙っていた
七年前のあの事件は、忘れたくても忘れられない
お父さんが私と祐誠の目の前で息絶えた、鮮明に映し出される過去
コンクリートに染みていくお父さんの血痕
赤く染まった私の全身
「っ...」
気づいた時には、涙が頬を伝っていた
何よ、こんな年にもなって泣くとか、小さな子どもじゃないんだから
「舞ちゃん...いいんだよ、恥ずかしがらなくて。僕の前では、思いっきり泣いていいんだよ」
「...啓くん.....」
「何年経っても辛いのは変わらないよね。
いつも舞ちゃんは我慢するから、アメリカにいる間も僕、ずっと心配だったんだよ」
よしよし、と優しく頭を撫でられる
その優しい手つきに、思わず涙腺が緩まってしまった
「啓くん...っ...ぅ、ぁ...っく...」
「辛かったね、舞ちゃん」
それから啓くんは、私が泣き止むまで頭を撫で続けていた
お父さん、私は何年経っても寂しいし、悲しいし、辛いよ
会えることならもう1度、お父さんに会いたい
そして、祐誠が現れることがないまま、私たちは墓地を後にした
「帰りにパフェでも食べて帰ろっか、舞ちゃん」
「うん!」