お前の唇、奪っていい?
啓くんとお茶をした後、私は忘れ物を取りにひとりで学校へ戻った
下駄箱でローファーから上履きに履き替えていると、ふと頭上からよく知っている可愛らしい声がした
「あれ、舞ちゃん?」
「...桃寧ちゃん!」
今年高校1年生になった桃寧ちゃんは、私達と同じ高校に通うことになった
桃寧ちゃんは頭がいいから、奥村さんと同じ特進クラスなんだ
「どしたの?忘れ物?」
「うん、筆箱忘れちゃって。桃寧ちゃんは?」
「お兄ちゃん待ってるの。さっき映画の撮影終わったから、教科書とか持って帰るんだって。
で、私も持つの手伝えーって駆り出された」
「そうなんだ、大変だね」
祐誠、今から学校来るんだ...
さっさと筆箱取って帰ろ...
「じゃあ、またね」
「あ、ちょっと待って!.....舞ちゃんどうして最近うちに来ないの?
お兄ちゃん、去年も今年も、舞ちゃんのお父さんのお墓参り、行ってないって言ってたし...
お兄ちゃんと何かあった...?」
心配そうに私を見つめる桃寧ちゃんに、私は何も言えなかった
私だって、聞きたいよ
なんでいきなり私を避けたのか、どうして奥村さんと付き合ってることを言ってくれなかったのか
どうして、撮影の代役を私なんかに頼んだのか...
私じゃなくて奥村さんに頼めばいいことなのに
「私、ずっと舞ちゃんとお兄ちゃんは両想いなんだと思ってたの。
でも奥村さんと付き合ってるっていうニュース見て、びっくりした」
「両想いとか、有り得ないよ。
私は祐誠のこと、そういう風に見たことないし、祐誠だって...
きっと私の事はなんとも思ってなかったよ」