【短編】クール上司の甘い罠
「仕事の話じゃなかったのか。なんの茶番だ?」
桐生部長の頬がほんのり赤く見えたのは気のせい?
彼は私から目をそらしてガラスの壁を見やる。あきれられた?
「返事をくださいとは言いません。ただ、これからは恋愛の対象としてみていただけませんか。みてもらってダメならあきらめもつきますから」
「あきらめる必要はないと思うが?」
それって、あきらめなくていいってこと?
あきらめずに好きでいていい、って本人公認の片思い?
どうでもいいって思われてるのか。
それとも……。
緊張で聞こえていなかった自分の心音が大きくなる。
「だ、だってお見合いは」
「話はもらったが、OKはしていない。そもそも見合いの話はお前にしかしていない」
私にしか話してないって?
向こうを見つめていた桐生部長は私をまっすぐに見た。
「見合いを止めた。その意味はわかるか?」
「は、話が飛んでます! 私に止めた記憶は」
「じゃあ、見合いを受けてもいいか?」
「だ、ダメです」
眼鏡の奥の瞳が鋭く光る。
「なら、態度で示せ。いつも言っているだろう、精神論ではなくきちんと見える形にしろ、と」
「ですからチョコをこうして」
「チョコで済ませるのか?」
部長は私から包みを取り上げると、すこしかがんだ。その分、顔が近づいて。
至近距離の瞳は、ほんのり、優しく笑っていた。
「ほら」
私は背伸びをして、部長の唇に自分の唇を重ねた。
(おわり)
桐生部長の頬がほんのり赤く見えたのは気のせい?
彼は私から目をそらしてガラスの壁を見やる。あきれられた?
「返事をくださいとは言いません。ただ、これからは恋愛の対象としてみていただけませんか。みてもらってダメならあきらめもつきますから」
「あきらめる必要はないと思うが?」
それって、あきらめなくていいってこと?
あきらめずに好きでいていい、って本人公認の片思い?
どうでもいいって思われてるのか。
それとも……。
緊張で聞こえていなかった自分の心音が大きくなる。
「だ、だってお見合いは」
「話はもらったが、OKはしていない。そもそも見合いの話はお前にしかしていない」
私にしか話してないって?
向こうを見つめていた桐生部長は私をまっすぐに見た。
「見合いを止めた。その意味はわかるか?」
「は、話が飛んでます! 私に止めた記憶は」
「じゃあ、見合いを受けてもいいか?」
「だ、ダメです」
眼鏡の奥の瞳が鋭く光る。
「なら、態度で示せ。いつも言っているだろう、精神論ではなくきちんと見える形にしろ、と」
「ですからチョコをこうして」
「チョコで済ませるのか?」
部長は私から包みを取り上げると、すこしかがんだ。その分、顔が近づいて。
至近距離の瞳は、ほんのり、優しく笑っていた。
「ほら」
私は背伸びをして、部長の唇に自分の唇を重ねた。
(おわり)