バレンタインに愛を込めて
14日。朝から彼は社内で色んな女の子に捕まっていた。顔を見ると辟易しているのが分かるがそんなことで彼女達は屈しない。

「三ヶ嶋さん、これ本命です!」
「私も~」
「いやー、ごめんだけどさ…」

断る彼のデスク下には誰が用意したのか大きな紙袋が置かれ、そんな台詞を意にも介さず「入れときますねー」と二人は明らかに高級ブランドと分かるそれを置いて去っていった。

隣の課で行われる毎年のやり取りを盗み見ながら自分が持ってきたチョコレートを確認する。
「ちょっと一本吸ってきます」と立ち上がった彼の後を少し空けて追った。人の居ない給湯室を通りすぎ、喫煙ルームに向かう背中に声をかけた。

「三ヶ嶋さん!」
「何?……羽多野」
「好きです。受け取ってください」

振り向いた彼は一瞬驚いた顔をしてすぐにため息をついた。

「……だからこういうのは社内で」

他の女の子のは受け取ったのに、と思うとさすがに涙が滲む。

「っじゃあいいです!他の人にあげます!」

顔を見られたくなくてすぐに踵を返そうとすれば、急に腕を引かれた。

「待て。誰にやるって?」
「関係な…、っ!」

腕の中に閉じ込められたと同時に唇が触れる。

「!」
「…夜、覚えてろよ」

私の手からチョコレートを奪った彼は会社では見せない顔で去っていった。
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