『ドルチェ♬』
西陽がちょうど窓から光が漏れこんでくるところまで傾いたのか裕翔の顔をオレンジ色に染める。

部室内に漂う埃たちも今はキラキラと光を受け綺麗で…、

その中に立つ裕翔がやけにいい感じに風景にフィットしていて咄嗟に写真を撮りたくなる衝動を抑え込む。

『バンド部に入ってくれ、詩乃』

けど、そんな衝動をも消し去るくらいの私が最も嫌がっていた衝撃の言葉を吐かれ私は自分の肩を掴んでいる裕翔の手を払い今度こそ気が済むまで後に後ずさりした。

『いやいやいやいや…、
おかしいってなんで私?!』

『お願いだって、詩乃。』

必死に首を降る私に両手を顔の前で合わせて懇願してくる裕翔の姿に一瞬ひるむもすぐにそのひるみは無くなる。

『やだよ…、私、楽器とかやったことないし…』

そりゃそうだ…、私は楽器なんて今の今まで音楽の授業以外に触ってこなかったのだから…。

(いきなりこんなこと頼まれったって…、)

『…けど…、これだとバンド部が…、』

さすがの裕翔もそこで合わせていた両手を下げ諦めかけたようにその顔に悲しさをにじませている。

けど、そんな顔を見せられたってどうしても無理なものは無理で私は頑として首を縦には振らなかった。
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