私の愛しいポリアンナ
「笑わないでよ」
「ごめん。だって、みのり、死にたいとか言いだしたらどうしようかって思ってたんだもん」
心配したんだよ、と言われた。
死にたくなるほど好きだったの?とも。
別に死にたいとは思わなかった。
みのりはゆっくりと顔を上げる。
手に持ったホットコーヒーが生ぬるくなっている。
湯気が出ていないコーヒーはこんなにもまずそうだったか。
いや、冷めても美味しいコーヒーが珍しいのか。
アイスコーヒーだったらそれはそれで好きだけど。
とりとめのないことを考えるみのりの思考を現実に戻すように、マオちゃんがぐっと顔を近づけてくる。
「ミヨとも話してたんだよ。みのり、もしかしてホストにはまって自己破産したんじゃー、とか、リボ払いで払いきれなくなったんじゃー、とか」
「なにそのテキトーな予想」
ふふっと軽い笑みがこぼれた。
マオちゃんもミヨちゃんも好き勝手に人のこと噂して。
というか、2人の仲は良好とは言い難かったはず。
私の異様な様子をきっかけに親しくなっていたようだ。
ぼけっとしたみのりの原因が失恋だとわかった途端、マオちゃんの目は嬉しそうに輝いている。
マオちゃん、また何かスイッチが入ったのだろう。
「みのり、失恋によく効く薬は、新しい恋だよ!」
そう、キラキラとした目と声で訴えられた。
や、落ち込んだ時はどん底まで落ち込んで泣きたいタイプなんです。
そんなみのりの願いも伝える暇なく、マオちゃんに退勤後の約束を取り付けられた。
そうして早めに仕事を切り上げた後。
マオちゃんに連れられたのは、二駅先の繁華街にある小さなバーだった。
「またバー?」
マオちゃんバー好きだな。
というか、彼女は酒が好きなのかもしれない。
みのりはマオちゃんの後をのそのそ歩きながらそう思った。
秋に出会ったのもここよりかなり高級なバーだったし。
「お酒が入ると距離詰めやすくなるしね!新しい恋を探すにはうってつけでしょ」
ふふんと得意そうにマオちゃんは言う。
しかしそのあとすぐに梅酒ロック〜なんて歌い出したから、これはもうマオちゃんがただ飲みたいだけなのだろう。
みのりは呑みのいい口実に使われたのだ。
誰かと一緒に飲みたいだけなら何もこんなどん底状態のみのりでなくてもいいのでは。
というか、今ならミヨちゃんの方がマオちゃんのお酒の相手には良いだろう。