私の愛しいポリアンナ
「こんな夜に急病外来行って、アレが中に入って取れなくなったことを伝えるとか、拷問ですよ」
「拷問だな」
拷問ではある。
それはわかるが、秋にはどうしようもない。
頭の中は「声かけなきゃよかった」の思いでいっぱいだ。
みのりになんか声をかけずに、彼女と一緒に帰っていればなぁという想いが頭を回る。
機嫌のいい彼女ならぎゅっとしても怒らなかったかもしれないし、お互いの気が向いたら一夜ベッドを一緒にできたかもしれない。
いや、それはないか。
女性は別れた相手には案外淡白というか、もう何も思いを残さない人が多い気がするし。
秋は別れた彼女のことを考えながらも、みのりの手を引き明るい通りへ出る。
飲み屋が多い通りなので客待ちのタクシーが多く停まっている。
そのうち一台を捕まえ、みのりをそこに押し込む。
信じらないような目が秋に向けられる。
「まさか、行くんですか?」
「行くしかないだろ。しょうがないから床下手で最低な男の称号はもらってやるから」
さずがの秋でも知り合いの女性のピンチを「頑張ってね」の一言で済ませて帰れるような男ではない。
まぁ、出来るものなら帰りたいが。
秋もタクシーに乗り込み、夜間でもやっている病院の名前を告げる。
タクシー代はみのり持ちでいいだろう。
俺は完全に巻き込まれた側だ。
「相手はどうしたんだよ」
「帰ってもらいました。話、通じなかったし」
「は?酔いが回ってたのか?」
「いえ。そういうわけではなく」
みのりは疲れを隠さずに、目をつぶり窓に頭を預けた。
どういうことだ。
秋の目線にもみのりは気づかない。
あのホテルの前でみのりを見つけた時、一番始めに出てきた感想が「案外早くに相手を見つけたな」だった。
ホテルにいたということは、やることは一つしかないし、そういう相手をもう見つけたのだろう。
芹沢みのりのあのタツヤへの執着ぶりを考えれば、もう少し引きずると思っていたのだ。
次の相手とは幸せな恋をしてほしいと、秋も人の子らしく思った。
しかしみのりは、次の瞬間、信じられないことをのたまった。