私の愛しいポリアンナ


「保険に入ってないようで病院に行きたがらないので、無理やり引きずってきたんですけど」

「役所に行けば何らかの措置はしてもらえるぞ」

日本はちゃんとセーフティネットが敷かれている。
一度落ちたからといって、そう簡単にあっさり社会のどん底に行ってしまうほど救いの手がないわけではない。
秋は男に視線を向ける。
この皮膚のただれ方から言って梅毒だろう。
よくもまぁここまでひどくなるまで放っておいたものだ。
ブツブツとした丸く赤い発疹が顔だけでなく手のひらにまで広がっている。

「おい、名前は?」

秋がそう聞いても男は一言も発しなかった。
言う気がないのか気力がないのか。
そのまま男を病院まで連れて行った。
患者の名前を聞かれても答えられない秋とみのりに看護師は不思議そうな顔をしていたが、「通りすがりに助けただけだ」の説明で納得してもらった。
男を医者に引き渡したら速攻でみのりの腕を引き病院を出る。
彼女は最後まで居たいようだったが、それを秋が許さない。
無言で力強くみのりの腕を引き、無理やり歩かせた。
さすがに痛かったのか、数十メートル歩いたところで抗議の声が上がったが。

「ちょっと、設楽さん、なんなんですか!?」

苛立った声にこちらの堪忍袋の尾も切れた。
思わず相手が女性だということも忘れて声を荒げてしまう。

「なんなんだはこっちのセリフだ!あんたはなんで毎回毎回、ろくでもない男にひっかかるんだ!?」

問題ありまくりで正気じゃない男ばっかりかまって。
本当に好みの問題というより、むしろ。

「あんた、ダメな男の世話を焼くのが好きなんだ」

そう、言い切った秋。
みのりは秋の剣幕に押されたのかしばらくポカンとしていた。
しかし、不意に口の端が持ち上がったかと思うと、ふふっという微かな笑い声が漏れた。



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