私の愛しいポリアンナ
「わかりました。設楽さんの熱意に負けました。探しますよ、年収400万の靴が綺麗な男」
「わかればいい」
困った顔をしたみのりに、秋は満足げに頷く。
こうして素直に言うことを聞いて、ちゃんとした人生を送るならそれでいい。
そうして二人はそのまま駅で別れた。
今度こそ、もう会うこともない。
みのりは普通に優しい男性と結婚して、子どもをもうけて、それなりに生きていける。
秋は人ひとりの人生を正しい方向に導いたという達成感で心が満たされていた。
その日は。
一週間後。
人の本質はそう変わらない。
パンケーキが好きな女の子はモンブランかパンケーキかで迷えばパンケーキを選ぶのだ。
趣味嗜好は人の最大のアイデンティティである。
会社から出て、ちょっと一杯飲みに行くかと寄った繁華街近くの駅。
そこの街路樹近く。
飲みすぎたのか盛大に嘔吐する男。
その横で、男の背中をさすり天然水のペットボトルを持っているのは、一週間前にあったばかりの芹澤みのり本人だった。
遠目で秋を視認した途端「ヤベッ」という表情をした時点で、本人だという確証は得た。
あとはもう、閻魔大王もびっくりの激怒の顔で歩み続けるのみである。
秋は静かに、ひとりのダメ女のもとへ歩き出した。