私の愛しいポリアンナ
人に約束を守らせるにはどうすればいいか。
もっと詳しく言うと、芹澤みのりがダメな男にちょっかいをかけるのを防ぐにはどうしたらいいか。
秋は静かに歩いた5秒ほどの間でその答えを導き出した。
約束を破らないように、監視すればいいのだ。
秋はこめかみに青筋をたてながら、芹澤みのりとゲーゲー吐いてる男に近づいた。
「いえ、今回は本当たまたま、辛そうだったから声をかけただけで」
「言い訳はいい」
「言い訳じゃなくて、本当ですってば!」
みのりが慌てているが、もう秋は聞く耳も持たなかった。
吐いていた男がついに座り込み、木にもたれかかる。
尻のあたりに自分の吐瀉物があるのにもお構いなしなあたり、本当に切羽詰っていたのだろう。
「後で楽になりますから、水飲んでください」とみのりがペットボトルを差し出している。
秋もしゃがみ込み、みのりとゲロ男と同じ目線になる。
男が目をつぶった。
顔色は相変わらず悪いが、幾分か表情は和らいでいた。
気持ち悪さは持続しているだろうが、ピークは過ぎたのだろう。
ほっと一息つける空気が広がった。
ハンカチで男の口元を拭うみのりを、秋はじっと見つめる。
「婚活は?」
「してますよ!今日だってその帰りだったんですから!」
「じゃあなんでここにいるんだ」
「ピンと来る人がいなかっただけです」
ふん、と憎たらしい顔でみのりは言い切る。
ピンとくる人って。
お前にとってピンとくる人というのは、へらへらと力の抜けた顔で笑うだらしない男のことだろう。
いい加減、自分の好みを信じるな。
秋は鈍い風を頬で受けながら、「これはダメだ」と思った。
芹沢みのり本人に任せていては進むものも進まない。
ここは、周りのお節介がなければ一生先には進まないだろう。