私の愛しいポリアンナ



「へぇ、設楽さんとはライバルなんですか」

「そうなんですよ。この人、本当に顧客が欲しがるものを見抜くのがうまいから怖いんですよね」

「抜け目なさそうですもんね」

人付き合いになれている男のおかげか、話は弾み、いい雰囲気だった。
別にこれといって仲良くもないが、特に問題もない会話。
期間限定のモンブランを美味しそうに食べるみのりも、ひいき目で見ればギリギリ可愛いの部類に入るのではないかと思う。
しかし男の好みはSっ気のある大人美人だから、好みにかすりもしていないが。
秋の不安要素もよそに、二人の初めての出会いはつつがなく終わった。

「どうだった?」と帰りの車の中で聞いた。
みのりの返しは一言だった。

「無理です」

飛んだうぬぼれ女がいたものだ。
自分がえり好みできるほどの年齢でも容姿でもないのに。
高収入で気が利いて話し上手な俺の友人を「無理」とは言ってくれる。

秋はそんな内心の怒りを抑えて、努めて冷静に聞き返した。

「なんで無理なんだ?」

「だって彼、私がいなくても生きていけるじゃないですか」

必要とされないなら、私は生きていけません。
みのりは窓の外を見ながらそう言った。
めんどくさい。
秋はそう思ったが、みのりにとっては「必要としてくれる」ということが重要なのだろう。
だから彼女はダメな男にひっかかるのだ。
みのりの世話が必要な、ダメ男。

秋は頭の中で人脈を引っ張り出す。
みのりを必要としそうな人。
みのりの世話が必要で、かつそれでいて彼女をそこそこの人生に導いてくれそうな人。

信号機4つ分ほど考えたが、該当する人物は秋の知り合いにいなかった。
そもそも、誰かに手を引っ張ってもらわなきゃ生きていけない人なんて秋にとっては軽蔑の対象だった。
大人なんだったらある程度は自分で生きていけ。
だからか、すぐに人を頼るしか能がない人物とは知り合いにもならなかった。
そのせいで、みのりの見合い候補が出てこないのだろう。

見合いと言うやり方は変えた方がいいかもしれないな。
秋はそう思った。
次の手を考えなくては。
通り過ぎる街並みの中、木々は金色に変わり始めていた。
もうすぐ、季節は秋だ。



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