私の愛しいポリアンナ

「結構面白いぞ。投資って江戸時代からあるからな」

「江戸時代」

「米先物取引だ」

大学時代、江戸時代から今に至るまで、投資のなんたるかを教えてもらった。
秋としては投資の概要を知れればいい、くらいの気持ちだったがやけに熱心に教えてくれる先輩がいたのだ。
その先輩の熱意に引っ張られるように秋も株投資にはまっていった。
そんな風に昔を思い出していると、みのりが引きつった顔をしていることに気づいた。

「なんだ?」

「先物取引って、怖いイメージしかないです」

「ナニワ金融道か」

同時にニヤリと笑った。
みのりはここのところソファで読んでいた漫画はナニワ金融道だ。
秋の本棚から勝手に引っ張り出してきたのだろう。
懐かしいものを読んでるな、と秋はその光景を見ていたのだ。

秋は身を乗り出し、みのりに先物取引について説明を始める。
大学時代、サークルの先輩が教えてくれたように。
一応興味はあるのか、みのりはウンウン頷きながら聞いている。

空気はひどく穏やかだ。
秋とみのりの日常はいつもこんな感じだが。
みのりと暮らし始めて驚いたことの1つ。
ダメ男が関わらなければ、みのりとはとても穏やかな時間を過ごせるのだ、ということ。
秋は紙とペンまで引っ張り出して説明しながら、この居心地の良さをかみしめていた。
はまらないピースのようだ。けど、それはそれでしっくりくるような。
どうにも秋の頭はうまくこの状況を表せなかった。


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